イッセイです。今年は,最近結婚して子どもができたばかりという生徒もいたので,さらに真剣に実習が進みました。よかったなあ。
目次
ヒトの発生を理解するために
卵と精子が受精してできた受精卵が,細胞分裂を繰り返して成長していく様子を発生といいます。
発生を生物の授業で取り上げるのは,そこに進化がものすごくはっきり見えるからです。
進化がはっきり見えることによって,ヒトつまり自分のことを思うことに意義があると思います。
そこで,ヒトの発生を理解してもらおうと企画しているのが,ニワトリの5日目胚の観察です。
有精卵と無精卵
ニワトリが交尾して産む卵を有精卵といいます。
育つとちゃんと大人のニワトリになる命を宿しています。
普段,私たちがスーパーで購入している卵は,受精していない卵です。これを無精卵といいます。
有精卵は,いまから大人のニワトリになるだけの栄養をたっぷり蓄えた卵です。
それに比べ,無精卵はとりあえず形ができていたらいいという卵です。だから,1個あたりの値段が全く違います。
餌代/卵数が,基本的な卵の値段となることでしょう。へたすると1個5円ほどという卵はそれだけの餌しか食べていないメスが産んだ卵なのです。
5日目胚の入手
有精卵を手に入れて,孵卵器にいれて温めたら,ヒヨコが生まれるかというと,そう簡単ではありません。

孵卵器の中は,とくに構造はありません。こんな孵卵器だと,人間が絶えず卵を回転させる必要があります。
なぜなら,雌鳥は足でたえず卵を回転させているからです。それは,子どもが順調に育つためです。
自分で餌を食べない頃の赤ちゃんを胚といいます。
卵を回転させていないと,胚が卵殻にはりついてしまって育たないのです。
そのため,転卵装置といって,卵を自動で回転させる装置がついた孵卵器もあります。
そんな転卵装置がついた孵卵器を特別に買ったとしても,素人が育ててどの程度の確率で育つかあやしいものです。
そこで,私は専門家が育てた有精卵を購入しています。
ゴトウのヒヨコ

私が毎年お願いしている専門家は,後藤孵卵場です。
有精卵を作り出し,孵卵し,養鶏農家にヒヨコを売っている会社です。
毎日のように産まれてくる卵を孵卵器で温めて,育てておられます。
そこで,孵卵器に入れる日(入卵日:にゅうらんび)を伺って,都合のよい日があったら,それから5日後に卵を買い,実習をすることにしているわけです。
買った有精卵

5日育ててもらった卵を10個買いました。1個100円です。2個おまけしてくださりました。

今日生まれた卵の状態も見てもらいたくて,1日目の卵も買いました。
私が行っている実習では,5班か4班(その日の出席率による)になるので,1班あたり5日目胚を2つ用意しました。卵を割り損なうことがしばしばあるので予備のためです。
実習までに胚が死んではいけませんから,実習のその時まで孵卵器で温めておきました。
ただし,割り入れるため,卵を横にして置いています。


横にして置いた卵は,上の方に胚が動いているはずです。
そこで,下の方を割って亀裂を入れてから,静かに左右に開くと,皿の中に卵を割り入れることができるのです。

皿は黒いものをオススメします。
特に5日目胚の場合は,胚が白いので背景が黒い方が観察しやすいからです。
1日目胚

黄身には蛍光灯が映り込んでいます。右側に映り込んだ蛍光灯の上にほやーっとした白くて丸いのがあります。
これが胚=赤ちゃんです。
「この白くて丸いのがヒヨコになるっちゃけんね」と見てもらっています。
白身も二段になっていて,すばらしい卵です。
5日目胚
じっくり1日目胚を観察してもらった後は,いよいよ5日目胚の観察です。

きれいに割れたら,こんなふうに黄身を覆うように胚が成長しているのが見えます。
たった5日で,こんなにも成長しているのです。
心臓もドクドク動いているのが見えます。
黄身に広がっているのは卵黄嚢です。表面には肉眼では見えませんが漿膜もあるはずです。
胚の周りには羊膜があり,胚の近くには尿嚢も見えます。

血管は心臓からでて心臓に戻っていますから,「血管は破れていないからね」と描くときにも気を付けてもらっています。

虫眼鏡があると,観察もだいぶ細かくできます。
手術をします
さらにしっかりと胚を観察してもらうために手術をします。
手術をするためには,薬さじとピンセットが必要です。
そしてこんなふうに語っています。
「赤ちゃんの周囲には,見えないけれど漿膜があります。それをピンセットで破きます。
破くと赤ちゃんに触ることができるようになります。
そこでサジにのせて,ピンセットで支えます」

「そのまま持ち上げると,つながっている部分があります。これが哺乳類でいうへその緒です。」

水をいれた黒い容器にいれると胚が見やすくなります。


実習を始めるときに,すでに『生まれる』を生徒に配っています。

『こうして生まれる』は,手に持って見せて回るのによい本です。

こうした本に載っているヒトの7週目胚の写真が,大きさからも形からもニワトリの5日目胚とよく似ていることを見てもらっています。
「7週目といえば,「あ,赤ちゃんができた!」とお母さんが気づく頃です。その頃,このくらいの大きさの赤ちゃんがいるんだよ」と語っています。